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2014年8月

2014年8月14日 (木)

佐世保高1女子殺害事件―サイコパスについて

Psychopath(サイコパス)または Sociopath(ソシオパス)と呼ばれる人々がいます。日本語訳では、サイコパスが精神病質者、ソシオパスが反社会的人間となるようですが、いわゆる精神疾患の一つです(でも、あまりに多岐にわたる症状を含むことからDSMなどに明確な分類がなく、人格障害に組み入れられています)。


サイコパスとソシオパス、この二つの言葉は同義語として用いられることが多いのですが、良心や道徳心などに欠け、罪の意識や他人への共鳴性、共感性に欠けている精神状態にある人のことを指します。


また、共感性・共鳴性の欠如に伴って、嫌悪感も欠如している場合が多く、人が目を背けてしまうような場面や物を平然と見られるのも特徴です。


一般的に、既に犯罪を犯してしまった人のことをサイコパス、この疾患を持ちながら社会的に一線を越えずに生活している人のことをソシオパスと言う事が多いようです。


他にサイコパスの人の特徴として、とても頭が良く、カリスマ的で、普通に会うと、まさかこの人が殺人を犯すとは思いもよらないような人であることが多いようです。


これまでの研究によって、サイコパスまたはソシオパスが脳機能に起因していることが証明されてきました。


Ventromedial prefrontal cortex (vmPFC)―(腹内側前頭前野)という共感性やモラル、自己抑制力に関わる部分の右側鉤状束の構造的整合性が少ない、前方側頭葉とvmPFCの間にある白質の接続が弱い状態にあること、また、vmPFCと偏桃体、vmPFCと内側頭頂皮質の接続が低いことも証明されています。


Nihms358572f2

(画像引用:Motzkin, J. C., Newman, J. P., Kiehl, K. A., & Koenigs, M. (2011) The Journal of Neuroscience, 31,(48), 17348-57)


vmPFCというのはここ↘

Ventromedial_prefrontal_cortex_2

それらの接続が低いと、負の刺激に伴う負の感情への変換が行われにくくなります。


これは、サイコパスの人と、サイコパスではない犯罪者とで比較した時にも、サイコパスの人にのみこの状態が顕著に表れます。


これはサイコパスの人特有の、社会一般的に悪いとされることをしているところを目撃されても、バツが悪そうにしたり、恥ずかしそうにしない行動によく現れています。また、他人の痛みに共鳴・共感することもないので(例えばホラー映画の残虐なシーンでつい目を背けるのは、他人の痛みに対して共鳴しているためですが、そういう感覚がないので)、反省の感情も基本的にはありません。反省を示すことが自分に有利だとか、社会的に求められているということを理解して反省の弁を口に出すことはあっても、感情の上で申し訳なかった…と思うことはありません。


サイコパスが、環境によってつくられるのか、生まれつきのものなのかを調べたミネソタ大学の有名な一卵性双生児の研究によると、サイコパス的問題行動は環境よりは生まれつきのもの、遺伝によるという報告があります。逆に、ソシオパスの傾向を持たない子どもの反社会的行動は、環境要因に影響されるとも報告されています。


ただ、ソシオパスで生まれた人が全員サイコパスになるわけではありません。ソシオパスの脳状態を持って生まれても、全員が全員、一線を越えるわけではありません。


しかし、多くの研究があるにも関わらず、ピンポイントでどのような遺伝&環境要因がソシオパスをサイコパスにするのか、まだはっきりとわかっていません。幼少期に受けた虐待経験やネグレクトなどによるという報告もありますが、これも100%ではありません。


また、幼少期に、普通では考えられないようなレベルの暴力を経験したり(戦争・紛争のある地域で育つなど)は、ソシオパスがサイコパスになる最も確実な要因だとも言われています。


歴史上、凶悪犯罪を犯したサイコパスの人の多くが(Ted BundyJeff DahmerDennis Raderなど)、愛のある暖かい家庭に育っていることをみても、何が一線を越える要因になるのか、まだまだ分からない点が多いです。ただ、サイコパスになる人は、非常に幼い頃から何かしら、残虐な行動のサインを出しているようです。


 

自らサイコパスの脳の研究に携わる研究者、ジェームズ・ファーロン氏が、コントロールグループ(比較対象として研究に参加するグループ)として家族の脳のPETスキャン画像を提供していたところ、偶然にも自分の脳がソシオパスの状態であることを発見したという有名な話があります。


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実は、家系をさかのぼると、過去にサイコパスの人が7人もいるそうで(有名なLizzie Bordenもその一人)、自分自身、幼い頃から権力や人を操ることへの強い固執があることを知っており、異様に競争に勝つことに執着し、人を不愉快にさせることを平気でしてきた、と語っています。ただ、彼の場合、人を身体的に傷つけるのではなく、議論で打ち負かせることで心理的に傷つけることで快感を得ていたのだそうです。


ファーロン氏はこれをもとに本を出版し、TEDでもスピーチしていますが、もし興味のある方は、スピーチを見てみてください(6分半で短いです)。遺伝的要因と環境要因についても端的に話されています。TEDのスピーチはこちらのリンクから見られます:

Exploring the mind of a Killer (殺人者の心を探る)という題名のスピーチです。


なぜ彼は人殺しにならなかったのか?

Jacketcoverthe_psychopath_inside198

ファーロン氏によると、両親に愛された家庭環境が大きいのではないか、ということです。


その後の研究でも、サイコパスに関わるVentromedial prefrontal cortex (vmPFC) の発達を左右するアレルが、環境の影響をより強く受けるようにしている可能性も指摘されており、ソシオパスの人ほど子ども時代の環境に強く影響される可能性があるようです。


ファーロン氏は、自分がソシオパスだと発見したことで、逆に自分自身の行動を変えようと決め、いつも人の気持ちを考え、正しいことをするようになった、と言います。

けれどそれは、彼自身が突然良い人間になったからではなく、自分のプライドのため、ソシオパスでもこれほど素晴らしい人間になれることを人や自分自身に見せるためだ、とも付け加えています。

 

彼のこの発言は、ソシオパスに対する療法の可能性を示唆しているように思います。

 

ちなみに、ソシオパスの人に対して効果的な治療法(と言うか、治療して治るものではないので、治療と言うよりは、行動の変化を促す療法)に関する研究も数多くありますが、未だ、決定的に効果的な方法がどれかはっきりとは分かっていません。


分かっているのは、サイコパスの人には、サイコセラピー(心理療法)は効果がないということです。これは当然という気もします。言ってみれば、全聾(全く耳が聞こえない)人に音楽療法をするのと同じことです。リズムやダンス的な音楽療法が聾の人を対象にありえなくはないですが、完全な聾の人に音を聞くということに特化した療法を行うことと、サイコパスの人にサイコセラピーを行うことは似ています。


また、罰を与えることで行動に変化を促すのもあまり効果がないようです(これは研究によってまちまちで、学校などでは効果がある場合もある)。例えば、動物を殺したから食事抜き!と言うようなことをしても、その衝動をコントロールできるようにはならないということです。罰をあまり苦に思わない傾向も、罰を与えることの無意味さに繋がっています。


どちらかと言うと、認知行動療法のようなものの方が効果があるようです。ファーロン氏のように動機は何であれ、自分自身で状況を把握して自発的に行動を変えていくことも可能だと思います。


近くにいる子どもがソシオパスだと思わせる行動を取っていたら(特に重大な事件になる前に、動物を殺して解体するなどの行動がみられる)、頭ごなしに忌み嫌ったり、そんなことをしてはだめだと言うだけで放置してはいけません。


また、問題行動を謝らせるだけでも意味がありません。(そもそも反省の気持ちを感じることが難しいため。)むしろそのような行動を取りたい衝動に駆られた時に、別の行動に置き換えてやり過ごせる習慣を教えて、身につけさせなければ、問題行動は次第に深刻になっていきます。


理論的にその子の行動を変えていくアドバイスを端的にできる行動療法士(ほとんどコーチのような人)が必要になります。(ドラマ「デクスター」の継父のような人ですね。)


先にも挙げたように、ソシオパスの人はとても賢く、人を操るのに長けているので、セラピストにもそれなりのスキルが必要になりますが、早期発見、早期対策が鍵だと多くの研究者が繰り返しています。


佐世保の事件が報道された時に、「命の授業にあれほど力を入れていたのにこの結果…」というようなことがよく記事に書かれていましたが、サイコパスの人には、一般的な「命の授業」のようなものも効果がありません。感情に働きかけるようなアプローチではなく、あくまで理論的なアプローチの方がまだ効果があります。


今後、より具体的な療法の仕方を立証していく必要と、スキルのある療法士を育成していく必要があります。教師や親だけで、最悪の事態を回避するのはとても難しいです。


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